目に見える世界の向こうに

目に見える世界の向こうに

マイナーな国に行きたい、そんなモノ好きは結構多いらしい。言葉の選び方的に、多方面から怒られそうだが、人と違うことを欲する考えは誰でも持っていそうな気がするが、やはり僕自身もそうなのだ。

さまざまな国を旅してきたが、数えてみるとその大半が旧共産圏。よく「なぜメジャーな国に行かないのか」と理由を尋ねられるが、未だに僕の説明を理解してもらえることは少ない。「老後だって行けるじゃん」。老後、すなわち50年後だとして、きっとその時に見る風景は、2010年代のそれとは異なっているかもしれない。それでも、今現在の変化を迎えている旧共産圏の方が、絶対に面白いはずだと、今でしか見られないものがあるのだと信じ、そんな国々を旅してきたのだった。このホームページを解説するきっかけになったアルバニア訪問は、ずっとずっと行きたいと願っていた国だった。

「周りを見ろ!」とか「そんなことする奴なんかいない」と、批判好きな人々もいるが、初心貫徹できるかどうかで、個人の性格がかなり見えてくる。それに、大概批判の内容は重複する。ああ言われたら、こう言えばいい。人は歴史に学ぶ。準備できることはあるはずだ。そして僕もまた罵声に近い呆れた声をよく耳にする。「また天邪鬼(あまのじゃく)な」。いいじゃないか。僕は消費者だけど、選ぶ自由だって欲しいのだ。消費するものの選択肢そのものを吟味したいのだ、と。

僕は1989年生まれの27歳で、生まれて数か月でベルリンの壁は崩壊した。日本では、やはり数か月前に昭和天皇が崩御され、今上天皇が即位された。「平成」とか「H」とか人は呼ぶが、それが終わりに近づきつつあるらしい。変化を知らない僕が、大きな節目を迎えることになる。果たして、変わることは怖いことなのだろうか。西野カナ氏はかつて「強くなりたい」と言っていたが、では僕は?

思わぬ出会いで、カナダの新進気鋭の映画監督Xavier Dolan(グザヴィエ・ドラン)を知ることとなった。彼は1989年3月に生まれたらしい。同い年。彼は同性愛者であることを告白しており、そしてとあるドキュメンタリーの中で次のように語っている。

“変わってるわね”と口にする人たちは、違いを理解する知性に欠けている。

美しき天才グザヴィエ・ドラン 彼の映画のスタイルと撮影技法に迫る!より引用(平成29年4月14日現在)

多様性を信じて受け入れることを、信じることを、ぶつかることを、彼は動く絵に押し込めた。色を重ね、対立させ、時には独白の中で、僕たちの視線を支配した。それは多様性をマジマジと見せつけられるのに、答えの示されないひとつの事例を提示され、放り出されたような気分だ。映画が終わった後、おそらく自然と自分に尋ねることになるだろう。「あれは一体なんだったのだ」と。

昨今、LGBT研修などが積極的に企業で行われるようになったと聞く。そのような研修の結果、僕たち日本人にとって、多様性や「新しいもの」は、コンプライアンスとポリティカル・コレクトネスを形作るひとつの要素としてしか思われていないのでは、と話を聞く限りでは、薄々感じている。レクチャーされた内容を把握することはできるが、単なる知的好奇心の解消に過ぎないのだろう。それでも考えないよりマシで、認識しないよりマシで、幾人かが数分後、数日後、何らかの疑問詞とともに思い返してくれればいい。

人生にはバラエティーがある。人の数だけ人生がある。

なのに、変人や語り合えない人に出会うと、生理的に嫌悪してしまうものに出会うと、やはり僕たち人間は心を閉ざしてしまう。グザヴィエ・ドラン監督のように、ここまで強い言葉では僕は言えないが、皆が思いを声に出して話し合える東京が存在すればいいな、と、僕は思うようになった。けれども、同時にそんなことは無理だってわかっている。だって、そんなの表面的で自分たちが見たものでしか語れない。私たちは、私たちが見た世界の中に住んでいるのだから。世界はそんなに浅くないのに、僕たちがする世界は狭いのだ。少なくとも彼は言葉ではなく、映画で示してみせた。世界は狭いのに、苦悩は深く、世界は広げることができる……はずだと。

さて、遠回りになった。かなり。

アルバニアは変化の途上にある。
旧共産圏はどうも「怖い」「治安大丈夫?」と言った疑問にさらされることになる。アルバニアは歴史的に個性がある。それは暗く、辛いものであったと語られる。現在もその陰の中に生きる人もいる。変わりたいと人々は願いながら、諦めの中にある。多様な程度のせめぎ合いの中で、彼らはアルバニアという国にアイデンティティを見出そうとしている。僕が旅した、たった7日間で出会った、異世界について、ああもう少し書きたいなと願いつつ、今日は変に感傷的なので、その機会は次回に譲ろうと思う。

でも、その怖いかもしれない国を一度僕のギャラリーから見て欲しい。決して怖いとは思わないはずだ。彼らは伝統と貧しさの中で、あるいは西欧への羨望の中で、我々よりも密度の濃いだろうコミュニケーションと強い自我を持って強く生きている。それが、少しでも写真から伝わったなら僕のアルバニア訪問にも、意味と理由が改めて見いだせる気がする。そしてきっとあなたの旅の選択肢に入ることがあれば、アルバニア訪問に成果があったと言えるかもしれない。

 

Tirana:アルバニアの首都
TIRANA, ALBANIA
Gjirokastra: アルバニア南部の街。街が世界遺産に登録されている。
GJIROKASTRA, ALBANIA
Berat: アルバニア中部、千の窓を持つ街と呼ばれ、オスマントルコ時代の建物が丘に立つ様は圧巻だ。
BERAT, ALBANIA
Shkoder: アルバニア北部の街、モンテネグロとの国境。Rozafa城の他、シュコダル湖の美しさで有名だ。
SHKODER, ALBANIA
ANIMALS: かわいい動物を見ると、ついシャッターを切ってしまうものだ。
ANIMALS, ALBANIA