出会うべきところで何かに巡り会えること

出会うべきところで何かに巡り会えること

暑い春の日、海外から帰国して厳しい時差ボケに苦しんでいた。特に調べもせず、時差ボケには日光浴が良いと勝手に決めつけて南に行こうと決めた。

いざ、鎌倉。湘南の風に吹かれ、数週間ぶりの日本を堪能することにした。山もあり、海もあり、観光地もあるこの街は良きリハビリになるはずだと。

予め調べておいた海の見える、展望の良いレストランで食事をする。50段ほどの階段を登り切ると、海が見える。霞こそあれ、江ノ島も長く続く海岸線も良く見える。振り返れば山がある。贅沢だ。

食事を終え、また階段を降りていると、そのレストランの駐車場を管理しているおじさんが待っていた。階段のすぐ向こうを江ノ電が走り、いま電車が来るから待て、とのこと。ならば、と僕はカメラを構える。電車が走り去ると、おじさんはこっちを見ていた。

「レンズは何使ってるんだい?」

「今日は17-50のズームレンズです」

「ズームレンズか、じゃあ半人前だな」

いきなり挑発的だ。思わず聞き返す。

「私はカメラが好きだったんだよ。若い頃はカメラ雑誌というカメラ雑誌を買いあさり、読みふけったもんだ。今は図書館で読む程度だけども。そもそも昔はフイルムだけだったんだ。お前さん、平成生まれだろう?」

ああ、この方はカメラが好きなんだ、と思う。撮影している姿を見て、何か言いたくて仕方がない、そんな表情だったのだ。話を聞くと、報道写真家を志していたとか、数台のフィルムカメラとデジタルカメラを駆使して今でも年に何度も撮影に行っているようだ。

むっとしたものの、カメラについて語るおじさんの目は輝きと、その裏に物悲しさが見え隠れする。

「ずっとだめだったんだ。どんなに報道写真を撮ってもついぞ褒められることはなかった。それでもずっと学校にも通って、作品もたくさん見た。批評の目だけは養えたはずだ。それでもついぞ褒められたことがなかったんだよ」

「あんたはまだ若い。雑誌なんぞ買わずに図書館を活用するんだ。そうやって力を蓄えていく傍、貯めたお金で旅をしなさい。カメラを買いなさい。金を惜しんではいけない。結婚したら到底そんなことはできないのだから」

ー後悔はせぬよう。

鎌倉は30度。正装をしたおじさんはしっかりと僕の目を見つめてそう言った。

地元の高校生だろうか。細い路地の真ん中を歩いていく。先ほどまでは注意していたのに何も言わない。車も電車も通る道だ。しかし、おじさんは一瞥もくれず、僕の肩越しに何かを眺めている。

遠く、遠くを。

旧式の江ノ電が通り過ぎる頃、おじさんは口を開く。

「ごめんな。こんなことを、引き留めて聞かせてしまって」

「いいんですよ、非常に嬉しく思っています」

そう言うと、おじさんはダイヤモンド富士やパール富士が見られる場所を教えてくれた。キレイに撮れるポイントにはアマチュアカメラマンが集うと言うが、そのおじさんもしばしば狙っている、と言う。

「気をつけて、よい旅を」

笑顔のおじさんの瞳越しに、夢に燃えたカメラ青年の姿を見た気がした。

「車来てるよ、道路の方に寄って」

高校生たちは相変わらず道路に広がりたがる一方で、でもやはり、そう注意するおじさんの背中がひどく丸まって見えたのだった。