コソボ訪問記3:バルカンの赤土の上で

コソボ訪問記3:バルカンの赤土の上で

ここまでのお話


 

 

コソボ・プリシュティナ空港に到着する前、オーストリア航空はハンガリー、モンテネグロ上空を通過した。緑豊かな平原、雪を冠した山脈を越え、次第に赤土と、直線の少ない舗装されていない路面が目につくようになる。上空からでも注意して入れば国の様子は観察できるのかもしれない。私のバルカン半島の印象は乾いた土地。街は集落単位、車はまばらで、少しだけイギリスのコーンウォール地方を思わせる丘陵が連なる。ただ、コーンウォールはみずみずしい芝生と曇りを連想させるが、コソボ上空では緑ときどき赤土。埃っぽさを上空からでも感じることができる。

そういえば、搭乗した時にランダムに乗客が選ばれて「非常口」近くの席に移動するよう促された。もともと人はまばらだが、全体的に年齢層が高い。おそらくフットワークが軽いのは若いアジア人。すぐに選ばれてしまい、せっかく選んだ通路側が……、と文句を言っていたものの、思ったよりも足元が広く、ドリンクも一度か二度欲しいのはないか、と聞きにきてくれたから満足だ。

CAさんも大方の業務が終わって適当なようだ。同じく移動を促された老年の夫婦と話している。バルカン訛りのあるドイツ語が聞こえる。コソボの現状を伝えているらしい。ふと英語が聞こえた。”We are in progress.”私たちは前に進んでいる、いい言葉だ。誰にとっての前なのか、バルカン半島でもっとも意識すべき言葉は抜けていた。あなたは誰で、どの民族で、どこの国に生まれ育ち、何を信じているのか。彼らの本質を知るには欠かせない情報だ。

ローマ帝国に支配されたのは2世紀ごろ。それまでは独自の文化を築きあげ、ギリシア時代を経験しているだけあってか、彼らには誇りがある。さまざまな支配者が現れては、その都度、現在のどの国も民族もただの被支配者では終わらなかった。全員が勝者にはなれない。共通の敵もいない。平和を求めながらも、平和を求めるほどに、不安定な要素が生まれてしまう。よそ者の僕にとってはバルカン半島の面白さであり、怖さであると思う。